札幌市南区に出没したヒグマ駆除に非難殺到 その疑問と問題点

札幌市南区に出没したヒグマ駆除に非難殺到 その疑問と問題点

今回取り上げるニュースはこちらです。

札幌市や近郊で今月、ヒグマの出没が相次いでいる。14日には同市南区藤野でヒグマ1頭がハンターによって駆除されたが、依然として果実などが食い荒らされる被害が続き、市や北海道警は、クマを寄せ付けないよう電気柵の設置や、生ゴミを放置しないよう呼びかけている。一方、市には駆除に反対する意見も多数寄せられ、対応に苦慮している。

出展:ヒグマ駆除に道外中心批判200件 札幌市対応に苦慮-毎日新聞

 

この事件からわかったヒグマ対策の問題点について、アニシルの見解を記します。

 

 

ヒグマの住む街「札幌」

北海道のイメージといえば、「北の国から」のように雄大な自然を思い浮かべる方が多いでしょう。

それと同時に、時計台や大通公園を始めとした市街地のイメージもあると思います。

札幌はその2つの面を持っていて、中心街から30分も車を走らせればうっそうとした森が広がり、そこには野生動物も生息しています。

なかでも代表的なのが、今回問題になった「ヒグマ」です。

札幌市内にもヒグマは当たり前のように生息し、人とヒグマの距離がとても近い地域でもあります。

しかも今回は山と山の間にある南区藤野を中心に出没しており、ヒグマが出るのが当たり前の地域です。

私も住宅から程近い山林でヒグマを目撃することは珍しくないですし、人里でヒグマの糞を目撃することは日常茶飯事です。

いわばヒグマと人は隣人で、住宅街に降りることこそ危険でしたが、土地柄ヒグマが出たこと自体は「特別なことではない」ことを留意していただきたいです。

 

 

「今回の」ヒグマの事件をきっかけに考えるヒグマ対策

北海道民のほとんどが「人に害をなす可能性のあるヒグマは駆除するもの」という認識でしょう。

たしかに、ヒグマの習性から考えて、今後更生させることは困難です。

最終手段としての殺処分という決断は当然で、非難するものではありませんし、人間の生活を守るために必要な手段です。

このため、アニシルは札幌市に殺到したという多数の抗議の電話に対しては否定的な立場をとります。

一方で、札幌市のヒグマ対策に対して非難するべきところがないわけではありません。

今回の記事では、今回のヒグマ駆除について解説していきます。

 

 

実際にあった苦情

結論として、札幌市の対応は現状できることをやったまでで、捕殺に至ったことは非難するべきではありません。

むしろ、危険な状態を放置したことのほうが問題で、もっと早く捕殺に踏み切るべきだったとすら思います。

それを邪魔しているひとつの要因に、通常業務が困難になるほどの苦情の電話があるでしょう。

8月25日付けで、北海道新聞がその一部を紹介しています。

クマ駆除1週間、悩める札幌市 意見530件「反対・抗議」が5割強:北海道新聞電子版

今回、報道されている一部の苦情について解説していきます。

 

「山に返せなかったか」

人里に下りて家庭菜園の野菜を食い荒らした次点ではまったく意味がなく、やるべきでない対応です。

出没した次点で、すでに該当固体はパトカーから逃げる様子も見せず、人間の立ち入る場所に当然のように居座り、かなり人に慣れていたことが見て取れます。

この状況になると、基本的に山には返すことができません。

ヒグマは食料に対する執着心が非常に強く、山に返しても戻ってくることは明白で、いたちごっこになりまったく意味がありません。

遠くに放した場合でも、先住のヒグマに負けて山を追われてまた人里に下りる可能性もあります。

 

「捕獲して施設に入れられなかったのか」

輸送費、餌代、施設管理費など、とても現実的ではありません。

また、本来ヒグマは同種同士で群れをなす生き物ではないので、施設に入れたからといって先住のヒグマと仲良くできる保障もなく、先住のヒグマに危険が及ぶ可能性も加味すれば、リスクを犯して行うべきではありません。

道内に数えるほどしかない既存施設のキャパに余裕がないのもひとつの理由でしょう。

SNSで「ヒグマ保護費用のクラウドファンディングやふるさと納税を募集してはどうか」とやや皮肉った意見がありましたが、これはもっともですね。

 

「麻酔銃で羆を捕獲して移設を」

上記2つにも共通しますが、麻酔銃を少し過信しすぎです。

麻酔銃はアガサ博士が作ったものでもなければ即座に効果があるわけではないです。

殺すための薬は即座に効果が出ますが、ヒグマを捕獲する前提で眠らせるための薬は効果が出るまで数時間かかることもあり、十分反撃されるリスクがあります。

GPSによる行動調査が積極的に行われていないのもこれが一つの理由です。

攻撃されたヒグマが自衛のためにハンターを襲うことも容易に想像できますし、「人間を守るため」の駆除なので、ハンターも怪我をするリスクは追うべきではないと考えるのが妥当です。

 

札幌市がヒグマ対策を何もしていないと思ったら大間違い

一部の苦情にもあったように、「札幌市は出たら殺せばいいと思っている」と、思っている人が意外にも多いです。

札幌市もそこまで愚かではないので、長期的なヒグマへの対応はすでに計画済みではあります。

さっぽろヒグマ基本計画

苦情を入れる方がこういった資料に目を通しているのか疑問です。(もちろんヒグマ研究者が資料を加味した上で苦言を呈している場合もありますが)

実行されている計画自体に無駄はなく、専門家主導で行われていることもあり学術的には有効で的を得ているものと考えていいでしょう。

実際の対応の大半が「普及啓発を行う」と結局住民の良心任せなのが残念ですが・・・。

 

 

今回の事件に至った問題点

繰り返しますが、札幌市のヒグマ対策には疑問視するべき部分があります。

これは行政の根本的なヒグマへの対応の問題点であって、あくまでも殺処分に抗議するというわけではありません。

人へのリスクを考えれば、残念ながらあの状況では捕殺以外の選択肢はありません。

しかし、苦情の中にも一部的を得た意見があったのも事実です。

先に紹介した北海道新聞の記事でも紹介されていましたが、「南区はヒグマが出て当然。人と共存できるよう努めるべきだ。」という意見。

これは至極真っ当な意見ですし、人に被害が及ぶ可能性がある場合に捕殺も視野に入れているなら私も同意見です。

 

ヒグマ出没に対する十分な予防がされていない

根本的な問題ですが、現状ではヒグマが人に近づくことを「予防」する対策がほとんどされていないことにあります。

先に紹介したさっぽろヒグマ基本計画も、現状ヒグマの行動調査から対策を模索するもので、実行されているヒグマ対策はないに等しいと言えます。

今回の個体は、人が近くにいても襲い掛かる様子もなく、いわばお散歩のような状態でした。

それであっても、人に興味を持ったり、脅威を感じた場合に人を襲うリスクは非常に高かったでしょう。

とくに今回の該当地区は毎年のようにヒグマが目撃されているエリアなのはわかっているはずなので、「ヒグマが人里に下りないための対策」を十分にしておくべきです。(中央区西区手稲区の一部もしかり)

ヒグマは本来里の動物なので、歩ける地形には限界があります。(それでも人間よりはるかに険しい道を歩けますが)

獣道が形成されることからもわかるとおり、ヒグマが歩くルートはある程度決まっており、把握するのは難しくありません。

そこに電気策の設置や、ヒグマが警戒するよう刈り払いなどを行っておけば、出没のリスクは大幅に減少したはずです。

北海道立総合研究機構は日本経済新聞に対して以下のように話しています。

出没が相次いだ地区には農地だった場所が広がり、長年手入れがされず草地に覆われている。クマが農地跡で果物を食べて味を覚え、住宅地に入り込むようになった可能性がある。

出展:ヒグマ、札幌で出没増加 専門家「人手足りない」:日本経済新聞

さっぽろヒグマ基本計画において緩衝地帯の重要性を確認していながらも、それを明確に実行に移しておらず、今回のような事件が発生しています。

こういった有効な対策を行わず、希望者だけに電気柵を貸し出すなど、最終的に住民任せの対応には疑問が残ります。

最終手段として捕殺することは必要ですが、住民がいつ危険に直面してもおかしくない状態に置いていることがそもそも問題だと考えます。

 

ヒグマの行動の変化についていけていない

ヒグマが人里に現れるようになった原因はさまざまなので、「新世代熊」という言葉だけで片付けたくはないのですが、実際近年のヒグマの行動は大胆になり、人を恐れなくなっていることは間違いありません。

そもそも、「ヒグマとの戦いが屯田兵最初の仕事だった」と言われることからもわかるとおり、ヒグマは人の生活エリアがかぶっている生き物でした。

有名なヒグマ被害のひとつ「札幌丘珠事件」は、現在の市街地のど真ん中だということからも、今住宅街がある場所もヒグマの生息地だったということもわかります。

ではなぜ現代のヒグマが人里に下りてこないかというと、最大の理由は「人が怖いから」です。

アイヌが狩猟で得た小熊と子供が相撲をとって遊んだという記録から察するに、人を怖がるのは本能行動ではなく、学習した上でとる行動です。

猟師の姉崎等さんは著書の中で、ヒグマは人の行動を見て自分が敵わない相手だと学習するのではと語っています。

つまり、そういった機会を得られなかったヒグマは、人を恐れず行動する可能性が高くなると考えられます。

逆に、「人なんてたいしたことない」と学習したヒグマは立て続けに人を襲っています。

知床では、知床財団の職員が体を張って積極的にヒグマを追いたて、人に近づかないよう学習させています。

過去には「春熊駆除」が同様の効果を持っていたと考えられていますが、春熊駆除の禁止もヒグマが学習する機会を減らした要因ではないかと考えられています。(絶滅の危機に瀕するような狩猟には反対です。)

これまではヒグマが人里に近づかないよう予防しなくても問題ありませんでしたが、2011年に札幌市中央区南23条という中心部付近にヒグマが出没した次点でもう少し危機感を持つべきでした。

この事件を受けて知床財団の事務局長である山中 正実さんが、銃規制の現状などの背景から難しいとしながらも、以下のように提言していました。

実働部隊は銃器等を用いた威嚇や追い払いにも対応し、危機管理上どうしても必要な時には、迅速かつ確実な駆除を断行できる能力も必要である。

出展:札幌市のヒグマ出没騒動について(事務局長のつぶやき)

ヒグマ対策の最前線にいる専門家が、8年も前にヒグマが学習する機会を与え、その上で必要に応じた捕殺対応することを説いてくださっていたわけです。

もちろんこれは簡単なことでないので、実行するのであれば各自治体に任せるのではなく、予算や人員確保、教育面まで考えれば北海道が主導し監督するべきだと考えます。

2018年に、まさにヒグマの被害が出ているにもかかわらず猟友会への報酬支払いを否決した島牧村の例があるように、地方自治体任せにするのはすでに限界を迎えており、知事が交代したこのタイミングで早急に北海道が主導してくれることを願います。

 

 

まとめ

今回の事件では、「殺してやむなし」と「殺すべきでなかった」という意見に二分されていますが、今後大きな被害を出さないために出没する前の対応に改善が必要だと考えます。

殺してやむなしという考え方は道民に根付いている意見ではありますが、「ヒグマが人里に近づきやすい状態を放置するのがそもそも危険」ということを忘れずに、また、ヒグマを殺さなくてもいい環境を保つ方法があることは頭の片隅に留めておいてしてほしいと願っています。

殺さないでほしいという考えは環境保全の根幹ですが、単純に殺さないで欲しいと思うだけでなく、現実的にどうしたら殺さないで済む環境を作れるのかまで考えるようにすれば、今後のヒグマへの対応も変わってくるのではないかと思います。

今後重大な人身事故を起こさず、人にもヒグマにも安全な環境づくりをすすめてほしいと切に願います。

 

 

文中紹介していますが、2011年に知床財団が発表した記事(ブログ)はとても的確なので、このページを訪れて下さった方にぜひ一度目を通していただきたいと思います。

札幌市のヒグマ出没騒動について(事務局長のつぶやき)│公益財団法人 知床財団

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