ワシントン条約でビロードカワウソ・コツメカワウソの国際取引禁止に

ワシントン条約でビロードカワウソ・コツメカワウソの国際取引禁止に

今回取り上げるニュースはこちらです。

 【ジュネーブ共同】ジュネーブで開かれているワシントン条約締約国会議は26日の委員会で、絶滅の恐れがあるコツメカワウソの国際取引を原則禁止することを決めた。ペット需要が高まる日本向けの密輸が摘発されるなど規制強化が求められていた。これまでに取引禁止が決まったビロードカワウソと共に、会期末の28日までに全体会合で承認される見通し。

出典:コツメカワウソの国際取引禁止へ 日本向けの密輸など要因にーライブドアニュース

※記事を書いている間にコツメカワウソの規制レベル引き上げについて採決され、可決されました。

 

近年、国内でもカワウソカフェやペットとしての需要が高まるカワウソ。

可愛い生き物で、水族館に行くと必ず目にする動物ですが、アニシルでは近年の日本国内でのカワウソのあり方について常々疑問がありました。

今回は日本におけるカワウソの取り扱いの問題点について解説していきます。

 

 

ビロードカワウソとコツメカワウソの違い

今回規制の対象となったのが、ビロードカワウソとコツメカワウソです。

両方に共通するのが、「愛玩動物(ペット)としての需要が高いこと」です。

とくにコツメカワウソは、飼育個体がSNSで有名になり、ゆるキャラにもなったことで人気を得ているのはご存知かと思います。

SNSではなじみのあるコツメカワウソばかりが話題になっていますが、ビロードカワウソも規制対象になっています。

 

ビロードカワウソ

出典:ビロードカワウソ-Wikipedia

ビロードカワウソ(黒鵞絨川獺、Lutrogale perspicillata)は、イタチ科ビロードカワウソ属(カワウソ属とする説もあり)に分類される食肉類。本種のみでビロードカワウソ属を構成する。

ビロードカワウソはコツメカワウソよりやや大きい種類で、体長は70cmほど、体重7kgほどと小型犬よりやや大きいイメージです。

大きさ以外に一見する違いはありませんが、コツメカワウソはツメナシカワウソ属 Aonyxで、ビロードカワウソはビロードカワウソ属 Lutrogaleなので明確に別種です。

人間による生息域の破壊によって生息数は減少し、レッドリストでは危急種に指定されています。

 

コツメカワウソ

出典
コツメカワウソ-Wikipedia

コツメカワウソ(Aonyx cinerea)は、哺乳綱食肉目イタチ科ツメナシカワウソ属に分類される食肉類。

現在わかっているなかで、カワウソ亜科のなかでは最小の種類。

体長40cm程度、体重5kg程度と、ビロードカワウソより一回り小さいですね。

国内で愛玩用として流通する個体の大半がコツメカワウソで、密輸も定期的に摘発されています。

人間による生息域の破壊によって、生息数は減少し、レッドリストでは絶滅危惧種に指定されています。

 

 

カワウソの規制を決めた「ワシントン条約」とは

今回、両カワウソの国際取引を禁止したのが「ワシントン条約」です。

日本での正式名は絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約。長い名前ですね。

国際的にはCITES(サイテス)でもなじみがあるでしょう。

ワシントン条約自体は一度は名前を聞いたことがあるかと思いますが、具体的にどのようなものなのかこの機会に解説しておきます。

 

動植物国際取引を規制する条約

ワシントン条約は、動植物の保護を前提に、国際取引を規制する条約です。

動物がよく話題になりますが、植物も対称になっています。

今回のカワウソのように、愛玩動物としての需要が高まって野生の個体数が減少したり、毛皮としての需要により捕殺されている動物、捕獲以外で個体数が減っている場合にも、これ以上個体数に影響を及ぼさないよう輸出入を規制するのがワシントン条約です。

ちなみに、絶滅危惧種が必ずしもワシントン条約の対象になるわけではなく、絶滅危惧種に指定されていなくてもワシントン条約の保護対象になることもあり、コツメカワウソはすでに絶滅危惧種に指定されていながら、今回の会議までは個人飼育を目的とした輸入が禁止にまではなっていませんでした。

 

日本においての罰則

実はワシントン条約自体に罰則はなく、それぞれの加盟国が定める法律によって罰せられます。

日本においては「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律」がそれに当たり、ワシントン条約に限らず国内の動植物もこの法律で取り締まられています。

最終的にその国がどれだけ世界の動植物の種の保存に熱心かという点にゆだねるというわけです。

 

 

カワウソの輸出入禁止の背景

今回、ワシントン条約でカワウソの取引が禁止されるのは突然の出来事ではなく、動植物の保護に理解のある人間からすれば、規定路線だったともいえます。

これまでのカワウソの保護について、大まかな流れを解説します。

 

かねてからカワウソの密輸は問題になっていた

以前から、カワウソの密輸はたびたび問題になっていました。

今年1月には、NHKの「クローズアップ現代+」にて、カワウソ密輸の特集が組まれています。

追跡!カワウソ密輸事件 黒幕は誰だ?-NHKクローズアップ現代+

これはひとえに「愛玩動物」としてカワウソが一般的になったことが大きな理由です。

そして、カワウソはかわいさゆえに大きな金の流れを生み、一部報道では反社会勢力の関与も示唆されています。

結果的に密輸が反社会勢力の大きな収入源となり、女子大生がカワウソを密輸しようとする事件まで発生しました。

今回の規制に踏み込む前から問題視されていたのです。

 

残酷な密輸の現実

密輸は、ただ網で捕まえて隠して輸入していると言うものではありません。

先ほど紹介したクローズアップ現代+のなかで、その残酷な密輸の実態について触れています。

野生のカワウソというのは、かむ力もありますし、ひっかく力もあるので、正直な話、面倒くさいんです。だったらもう殺してしまえということで、親のカワウソを殺します。ものすごく希少動物。にもかかわらず、それを殺してしまう。小さな目も開かないようなカワウソを、全部そのままそっくり持ってくる。その中で、靴下に入れるとか、そういったことで運ぶんですが、業者のある方に聞くと、半分生きていればいいほうだという言い方をしていました。つまり、タイから日本まで飛行機で6時間ちょっとぐらいだと思います。ただ、その前後の時間も含めると、恐らく8時間、9時間、10時間という時間を機内の中で過ごす。その中で大体死んでしまっているんですね。

出典:追跡!カワウソ密輸事件 黒幕は誰だ?-NHKクローズアップ現代+

カワウソは子育てをする生き物なので、当然子供が盗られそうになれば抵抗します。

肉食性の動物なので攻撃力も高く、子供を捕獲するときに面倒だから親を殺してしまう。

そして、秘密裏に輸出しなければいけないので、補給や保温などを考えたゲージではなく、靴下など衣類に紛れ込ませてスーツケースに入れるそうです。

コツメカワウソは国内で60万~150万円ほどで流通しているので、現地で3万円で仕入れたとして、10匹密輸して1匹でも生き残れば十分利益が出る、そういう計算のうえで殺すことも承知の上で密輸しているわけです。

これまで許可があれば国外からカワウソを正規で輸入できましたが、同サイトの情報を基にすれば、なんと2000年以降タイから正規に輸出された固体はゼロだそうです。

つまり、コツメカワウソの寿命からして、現在日本に存在するタイから輸入されたコツメカワウソは密輸である可能性が非常に高いと言うことです。

高いお金を出して購入した個体だから安心ではないというわけです。

 

密輸先の大多数が「日本」

野生生物取引監視団体「トラフィック」は、密輸先の大半が「日本」であることと、日本政府の規制が甘いことを名指しで指摘していました。

 国際的な野生生物取引監視団体「トラフィック」がまとめたカワウソの密輸に関する報告書によると、二〇一五~一七年に東南アジアで保護された五十九匹のうち、日本向けが三十二匹で最多だった。

 トラフィックは「日本の需要が国際的に注目を集めている。輸入国としての責任を認識し、国内への違法な流入と流通を許さない仕組みを徹底するべきだ」と強調する。

出典:東京新聞:カワウソ、商業取引禁止を インドなど条約規制提案

今回の件以外でも日本の動物保護に対する意識は非常に甘く、後術しますが今回の採決に関しても日本が世界から遅れていることを露見しています。

日本人としては恥ずかしい限りですが、SNSではこのニュースが報道されているにもかかわらず「カワウソ飼いたい」という投稿が続けられているような現状からして、政府だけでなく国民の意識のレベル自体が低いことが伺えます。

 

今回の輸出規制はランクアップしたに過ぎない

ではもともとカワウソは自由に取引できたのかと言うとそうではなく、逮捕者が出ていたころからもわかるとおり、規制はありながらも取引は可能でした。

ワシントン条約には、3つのランクがあり、おおよそ4,500種類の動植物が規制対象になっています。

絶滅のリスクは現段階では低いものの、取引が活発に行われれば生息数に甚大な影響を及ぼす可能性がある動植物に対して、輸出許可書または原産地証明書など規制を求めるのが「附属書Ⅲ(Appendix Ⅲ)」です。オコジョなど200種類以上が対象になっています。

絶滅の危機には瀕していないが、取引が活発に行われれば生息数に甚大な影響を及ぼす可能性がある動植物に対して、加工品(毛皮や剥製など)も含めて輸出許可書または原産地証明書など規制を求めるのが「附属書Ⅱ(Appendix Ⅱ)」で、コツメカワウソとビロードカワウソはこれまで附属書Ⅱに分類されていました。

そして今回カワウソ2種が対象になる見通しなのが、附属書Ⅰ(Appendix Ⅰ)です。

すでに絶滅の危機に瀕しており、取引がさらに甚大な影響を及ぼす可能性がある動植物に対して規制をするもので、個人での飼育目的などの商業目的でも輸出許可を得られた附属書Ⅱ、Ⅲに対して、原則的に学術研究目的しか輸出入が不可能になります。

 

 

国内で飼育流通しているカワウソの今後について

すでに大量のカワウソが輸入されており、動物園や水族館といった学術研究目的以外にも、個人での飼育個体が多数います。

そういった個体に関しては、今後の対応は日本政府に任せられます。

法律で個人での飼育を制限すること危惧されていますが、筆者としては現段階ではそこまでの措置に踏み切らないものと見ています。

これまで飼育が規制されてきた特定動物は「人の生命、身体又は財産に害を加えるおそれがある動物として政令で定められる動物」、もしくは「鳥獣保護法」の保護対象なので、この条件が改正されなければカワウソの飼育規制される可能性がないわけではありません。

また、飼育許可が出なかった場合の受け入れ先も不十分です。

おそらく過去の例から見て、輸入数を制限することで今後飼育個体は減ることを見越して、規制しない可能性が高いのではと考えています。

ただし該当法上では、附属書Ⅰに指定された動物の国内でも取引を原則禁止としているので、新たな購入や、無償での取引も基本的にはできなくなります。

許可を得た場合のみ可能ではありますが、密輸した個体には基本的に許可が下りないでしょう。

密輸した個体は今後一層取引しにくくなるので、売る前提で密輸された個体は、密輸業者からすれば餌代を食うだけの存在になり、捨てられて野良カワウソが増えることも危惧されます。

 

日本はワシントン条約で日本は規制に反対

非常に残念なことですが、同会議に参加していた日本政府は、カワウソ2種の規制レベル引き上げに対して反対していたことがわかっています。(2種共に附属書Ⅱのままに据え置く採決に賛成)

カワウソの個体数減少の原因として名指しされているにもかかわらず愚かな判断だったといわざるを得ませんが、その背景には日本国内の現状があるのではと思います。

先述したとおり、このニュースが大きく報じられたにもかかわらずカワウソを飼育したい欲求を抑えられない国民がいるのは事実ですし、カワウソカフェが大混雑したりと、すでに1つの生業として成り立っています。

象牙規制に反対したときと同じく、対象を収入源にしている方に配慮した可能性もなきにしもあらずですが、本質は動植物の保護です。

無用な議論を呼ばないためになるべく政府批判は避けたいのですが、産業によって動植物が危機に瀕することを規制する条約に対し、産業を保護する観点からのみ意見したのであれば愚かだとしか言いようがありません。

もしどうしてもカワウソでお金儲けをする人を守りたかったのであれば、個体数減少を引き起こす原因になっている国として、独自の取り組みを考えて提示するべきでした。(象牙はこの対応を求められている)

もう一つの考え方として、国内の取引も現行法上では禁止されるため、それらの対処をするための猶予が欲しかったという可能性もありますが、1月の次点でワシントン条約事務局にカワウソ二種に対して附属書Ⅰに引き上げる提案書が提出され、今回の会議で可決される可能性が高かったのだから、前もって対応しておくべきだったのではないでしょうか。

ちなみに、反対票を投じたのは日本だけでなく、ビロードカワウソでは賛成票102票に対して反対15票(棄権11)、コツメカワウソでは賛成96票、反対16票(棄権14)でした。

 

 

まとめ

今回の規制は日本でのなじみがあるカワウソが対象になったこともあり、積極的に報道され、SNSでもトレンド入りするなど注目を集めました。

しかし、今回の採決に至るまで、日本が密輸入の当事国として指摘され、非難の対称になっていたことはあまり知られていません。

日本でのカワウソブームの煽りを受けて、無数の希少な動物の命が奪われたことを一人でも多く知り、今後の国内のカワウソに対する価値観が改善することを望むのと同時に、今後の動植物保護活動への考えを深めるきっかけになればとアニシルは願っています。

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