ワシントン条約会議の開催に合わせて、ワシントン条約について解説しました。
そのなかでとくに反響が大きかったのが、絶滅危惧種=ワシントン条約の対象ではないということ。
ではそもそも絶滅危惧種とはなんなのか、今後何度も取り上げることになると思うので、このタイミングで詳しくかつやさしく解説していきます。
絶滅危惧種とは?
一度は聞いたことがあるだろう絶滅危惧種ですが、その内容や内訳はあまり知られていないでしょう。
絶滅危惧種という表現自体に誤りはないのですが、ざっくりしすぎてちょっと説明不足です。
では、実際にはどういった分類になっているのでしょうか。
レッドリストの基準のひとつ
絶滅危惧種は国際自然保護連合(IUCN)が作製する「レッドリスト」の分類のひとつで、主に自然下の個体数が減少している動植物のことを指します。
ちなみにレッドリストが出版されたこともありますが、その表紙は必ずしも赤ではなく、紫やグレーもありました。
野生で生息が確認されていないが現存する種類は厳密には絶滅危惧種とは別なカテゴリーになりますが、保護対称になっている動植物をまとめて絶滅危惧種と呼ぶことが多いです。
IUCNレッドリストのカテゴリー分け
<Adequate data – 十分なデータあり>
Extinct (EX)-絶滅
Extinct in the Wild (EW)-野生絶滅
Threatened ー絶滅危機種
・Critically Endangered (CR)-深刻な危機 (近絶滅種)
・Endangered (EN)-危機 (絶滅危惧種)
・Vulnerable (VU)-危急 (危急種)
Near Threatened (NT)-準絶滅危惧 (近危急種)
Least Concern (LC) ー低懸念 (低危険種)
<Data Deficient (DD)-データ不足>
<Not Evaluated (NE)-未評価>
こんな感じで、正確には絶滅危惧種というのはひとつのカテゴリーに過ぎず、ニュースで絶滅危惧種と紹介されていても正確には危急種だったりということは少なくありません。
先日のカワウソの国際取引禁止のニュースでも2種ひっくるめて絶滅危惧種と言われていましたが、正確にはコツメカワウソが絶滅危惧種で、ビロードカワウソは危急種です。
日本版レッドリストの絶滅危惧種
日本政府(環境省)の作製したレッドリストにおいてはIUCNのレッドリストで「絶滅危機種」にあたる部分が「絶滅危惧種」になっています。
絶滅危惧Ⅰ類
・絶滅危惧ⅠA類(CR)
・絶滅危惧ⅠB類(EN)
絶滅危惧Ⅱ類 (VU)
準絶滅危惧 (NT)
こんな具合に、絶滅危惧種の中でいくつかランク分けされているというわけです。
小難しい表記なのでIUCNのレッドリストのほうがその動物がどれぐらい数を減らしているかわかりやすいような気もしますね。
日本の絶滅危惧種
ではより絶滅の危機に瀕している生き物を身近に感じるために、環境レッドデータブックを参考にして日本国内に生息している動物をピックアップしてみましょう。
動物園や水族館でよく見る動物も絶滅危惧種に指定されています。
ラッコ
水族館のアイドルですね。
環境破壊や人間による乱獲の影響で個体数を減らしており、IUCNでは危急種、環境省レッドリストでは絶滅危惧IA類 (CR)に指定されています。
かわいいからか保護活動も活発ですが、数が増えすぎることで漁業への影響を危惧する声もあります。
ジュゴン
沖縄に生息する海洋哺乳類で、人魚姫伝説の元になったといわれるとぼけた顔のかわいいやつです。
環境破壊や人間による乱獲の影響で個体数を減らしており、IUCNでは絶滅危惧種、環境省レッドリストでは絶滅危惧IA類 (CR)に指定されています。
日本では現在鳥獣保護法によって厳重に保護されています。
エゾナキウサギ
北海道に生息するころっとしたかわいいウサギです。
主に環境破壊の影響で個体数を減らしており、IUCNでは低危険種、環境省レッドリストでは準絶滅危惧(NT)に指定されています。
北海道ではエゾナキウサギの生息地を守るため、大金をかけて建設した道路を途中で建設中止にした例もあります。
シマフクロウ
北海道に生息する鳥で、アイヌは集落を守る神様「コタンコロカムイ」として崇めています。
主に人間による環境破壊が原因で数を減らしており、IUCNでは絶滅危惧種、環境省レッドリストでは絶滅危惧ⅠA類に指定されています。
生息数は100羽以下と言われ絶滅目前まで迫ったこともありますが、現在地道な保護活動によって徐々に生息数を増やしています。
イトウ
北海道に生息する日本最大級の淡水魚で、記録では2.1mの個体も見つかっています。
主に河川の環境破壊で数を減らしており、IUCNでは近絶滅種、環境省レッドリストでは絶滅危惧ⅠB類に指定されています。
絶滅リスクの高い近絶滅種に指定されては居ますが、生息地こそ減っているものの、特定の場所においてはルアーフィッシングのターゲットになる程度には生息しており、養殖が比較的簡単なことから放流事業も活発に行われています。
オオクワガタ
ペットショップでもよく見かける子供たちに大人気の昆虫ですね。
昆虫ブームのあおりを受け自然化では数を減らしており、環境省レッドリストでは絶滅危惧Ⅱ類に指定されています。
昆虫ブームで海外から近縁種が大量に輸入され、その一部が野生化し在来種と混濁している例もあります。
※画像には近縁の別な種類や亜種が含まれている可能性があります。
絶滅危惧種のために私たちができること
ではこういった絶滅危惧種のために、個人でできる支援はどのようなものがあるのでしょうか。
直接的でなくても、間接的に支援する方法もあります。
保護団体への寄付
まず思いつくのが保護団体へ金銭的に支援する方法でしょう。
国際的に世界の動物たちへの支援をしたい場合、代表的なのがWWFで、一口1,000円から支援することが可能です。
また、特定の動物や特定の地域で活動する団体への支援もあります。
筆者も知床財団など、活動に賛同する特定の団体への寄付を中心に支援しています。
猛禽類医学研究所などは、グッズを購入することでの支援も可能です。
ただし、お金を集めるだけ集めて実際の保護活動に使用していない詐欺紛いの団体もあるので、支援先の活動状況をよく精査する必要があります。
動物園へ行く
意外な方法かもしれませんが、動物園へ足を運ぶことも希少な動物の支援に繋がります。
動物園には研究機関としての側面もあり、動物園の収益は動物の研究にも使われています。
もちろん直接野生動物の保護活動の資金に当てたほうが効果的ではあるのですが、動物園には絶滅の危機に瀕した動物を世界に分散して種の保存を図る意味もあります。
入園料を支払うことで、動物園で飼育されている絶滅危惧種を健康に飼育できる費用を支援することにもなります。
安易にエキゾチックアニマルを購入しない
2019年のワシントン条約で国際取引が規制されたカワウソは、ペット目的での密猟による個体数減少(輸出先の大半が日本)が大きな原因でした。
カワウソのように近年流通するようになったエキゾチックアニマルの多くは繁殖方法が確立されておらず、野生の個体を捕獲して流通させている場合も多いです。
ブームになると、とたんに金目的での密漁が横行し、輸送途中に死ぬことまで加味した個体数を密輸しようとします。
もしこのままコツメカワウソの個体数が回復せず絶滅してしまうようなことがあれば、間違いなく安易に欲しがる日本人にも責任があります。
的確な治療を行える動物病院も少なく飼育も困難なので、エキゾチックアニマルを飼育しようとするときにはそれがどういった生体なのか、よく調べ、よく考えて購入するようにしましょう。
まとめ
絶滅危惧種はレッドリストのひとつの分類のひとつで、厳密にはリスクに応じてさまざまな段階があることは覚えておくといいですね。
日本国内にも多数の絶滅危惧種がいて、環境省が実態把握に努めています。
絶滅危惧種への支援の方法はさまざまで、できることをするだけでもいずれ大きな力になります。
筆者が考える最大の絶滅寄付種への支援は、なにより大勢が絶滅に瀕している動物を含め、野生動物への理解が深まることです。
近年動物関係の本がブームになることもあり、今後ますます野生動物への理解は深まるでしょう。
しかし、それを待っていられるほど野生動物の現状は軽いものではありません。
今回のカワウソの件をきっかけに、少しでも野生動物の現状に目を向ける方が増え、「カワイイから欲しい」ではなく、「カワイイから大切にしたい」という風に考え方をシフトできる世の中になって、少なくてもいいので支援の手を差し伸べてくれる方が増えることを願っています。
多くの人が野生動物の現状を理解するだけでも状況はよくなっていくので、当サイトでも継続して野生動物の現状を発進していければと思っています。