シマウマはなぜ縞模様なのか。
もし、その答えを自信たっぷりに話す人が居たら、きっとその人はうそつきです。
なぜなら、その答えは2019年9月現在解明されていないからです。
じつは生き物の生態は謎が多く、明確に答えが出ているもののほうが少ないともいえます。
今回はシマウマの縞模様の謎を元に、動物の謎を解き明かすのがなぜ難しいのかを解説します。
シマウマはこんな生き物
シマウマはアフリカ諸国に生息する草食動物です。
動物園にも当然のようにいるので、気軽に生で見ることのできる動物のひとつですね。
体長はやや小さく、サラブレットを始めとした一般的なウマよりも小さいです。
さらには先端だけに長い毛が生えた尻尾や、頭に対して大きな耳など、サラブレットと比べるとやや不細工。
じつはこういった特徴はウマよりも「ロバ」に近く、日本でウマよりもロバが一般的な生き物だったら和名は「シマロバ」だったでしょう。
シマウマには大きく分けて3種類いて、
- ヤマシマウマ
- サバンナシマウマ
- グレービーシマウマ
に分けられます。
亜種も含めれば10種類いますが、亜種ともなると外見からは見分けがつきにくく、もしシマウマ鑑定士があればひよこ鑑定士よりも難しいかもしれません。
「なぜシマシマ?」の代表的な説
シマウマについてはちょっとうるさいので本当はもっともっと書きたいところですが、また別な機会に取っておいて話を進めましょう。
シマウマはなぜシマシマなのか、最初に言ったとおり、その正確な理由はわかっていません。
シマウマ本人もきっとそんなことは知らないでしょう。
とはいえ同じ疑問を持つ人は世の中に沢山居て、その理由を日夜研究していたりします。
その理由を一部ご紹介しましょう。
頭数がわかりにくい
これはどうぶつ奇想天外などでも規定路線として紹介されていた説です。
実際、あのシマシマが沢山居たら何頭いるかなんてわかりません。
これぱっと見で何頭いるかわかりますか?
わかりませんよね。ちなみに15頭います。(多分。それぐらいわかりにくい。)
食物連鎖の下位にいる生き物は、捕食者に対抗する手段としてもっともポピュラーな作戦は数で対抗することです。
沢山居れば小さな抵抗力も大きくなりますし、実際ライオンがシマウマを襲うときは単独で行動している個体を狙うことが多いです。
シマシマになったら数がわりにくく、捕食者の警戒心をあおるのではと言う説です。
体格がわかりにくい
この複雑なまだら模様は、単体としてみても効果があるのではという説もあります。
捕食者からしても確実に獲物を捕らえるためにターゲットの体格を重要視していて、子供やひ弱ですぐに捕らえられそうなヤツを好みます。
どれが小さいのか、ひ弱そうかわかりにくいですね。たぶんみんな似たり寄ったりです。
これは自動車開発でもこの効果は利用されています。

じつはこの模様、デジタルカモフラージュ柄などと呼ばれ、その車両本来のボディラインなどを判別しにくくするためのものなのだ。このカモフラージュ柄が使用されるのは、ボディのデザインなどがほぼ固まった市販間近の車両が多いが、それはライバルメーカーなどに自社のデザインのトレンドや傾向を悟られないようにするという意味合いが強い。なかにはわざと窓の形からずらしてカモフラージュ柄を貼り、ウインドウの形状を誤魔化す手法も使われることがある。
出典:模様には意味があった! 開発車両が纏うカモフラージュ柄に隠された秘密とは
シマウマから発想したわけではありませんが、シマウマのシマにも同じ効果がありますね。
視覚効果説はおそらく間違い
紹介した2つの説はどちらも視覚効果ですが、これは間違いなのではと言われています。
否定的な意見が有力になったのには、捕食者側に理由がありました。
シマウマの一番の天敵はライオンですが、ライオンに縞模様はほとんど効果がないという見解が強いです。
シマウマの研究を行う生物学者のティム・カーロ氏によれば、むしろ見え易くなっている可能性すらあるというのです。
ライオンは色を識別する能力こそ低いものの、遠くを見る能力も動くものを察知する能力もとてつもないのでうなづけます。
体温調節のためという説もありますがそれもそこまで大きな効果がなく、シマのなかった個体が淘汰されるほどの影響ではないと考えられます。
解明されつつある縞模様の謎
近年、そんな謎だらけのゼブラ柄にも、有力な説が現れました。
それはなんと捕食者に対してではなく、小さな虫に対してでした。
人間を最も殺している生き物は「蚊」であることからも分かるとおり、虫は哺乳類に対してもめっぽう強いのです。
シマウマの生息域にも吸血昆虫がいて、とくにツェツェバエは難敵です。
ツェツェバエに刺されるとひどい激痛を伴うだけでなく、「アフリカ睡眠病」になるリスクもあります。
アフリカ睡眠病は人間にも動物にも感染する人獣共通感染症で、重篤化すると神経に影響を及ぼし、場合によっては死に至ることもあります。
ヨーロッパ人がアフリカ開拓のために連れて行ったウマは、アフリカ睡眠病によってほとんど使い物にならなかったという記録もあります。
しかしウマの仲間であるシマウマはアフリカ睡眠病になる個体が少なく、ツェツェバエからもシマウマの血液がほとんど見つからなかったのです。
そこに目をつけた研究チームがツェツェバエとシマウマの関係を調べた結果、そのゼブラ柄に大きな効果があることが分かりました。
イギリスのブリストル大学の研究でウマにゼブラ柄の服を着せたところ、ハエの付着が25%抑えられる結果が出たのです。
なぜゼブラ柄が昆虫に効果があるのかまでは解明されていませんが、アフリカ睡眠病を抑える効果があるとすれば、シマシマの柄を持つ意味は大きく、それが生存戦略の一つになったとも考えられます。
蚊に刺されないためにゼブラ柄を着ようと思った方はちょっと賢いですが、蚊は主に匂いを元に獲物を見つけるのであまり効果はないと思います。(試した方が居たらぜひ結果を教えてください!)
生き物の謎を追及するのはこんなに大変
シマシマの謎も面白いですが、筆者が一番大きかったのは「こんなにわかりやすい特徴でもこれだけ追求が大変なのか!」という感動です。
一番わかりやすい敵に対する進化かと思ったら違い、環境に適応するためかと思えば違い、最終的にはもしかして小さな虫に対する進化なのではというなんとも回りくどい地道な研究が続けられているんです。
しかもその理由をつぶし込むためには相手の習性までも考える必要があるので、ほんとうに途方もない研究が続けられているんです。
さらに言えば、その現場の研究者からすればそれがわかったからといって利益になるわけでもなく、ただその謎を追求しているだけというのもすごいです。
これってすごいことですよね。
人間の謎もまだまだたくさん
動物だけでなく、人間にもまだわかっていない謎があります。
スマホでこのサイトを見ている方はちょっと立って歩いてみてください。
あなたの今の状態が謎です。
なぜ人間は直立二足歩行なのか。
二足歩行できるの動物は意外と沢山います。
カンガルーやチンパンジー、鳥も二歩足で歩きますね。
しかし、カンガルーやチンパンジーは手も使いますし、骨格もそのほうが楽にできています。
手を使えないニワトリは胴体が前を向いて脚もたたんだ状態ですし、直立しているように見えるペンギンも、じつは人間に当てはめればしゃがんだ状態なので直立二足歩行ではありません。
なぜ人間だけ直立二足歩行になったのか、これもシマウマのシマと同じく解明されておらず、さらに言えばおそらくタイムマシンが発明されるまでは明確な理由は分からないでしょう。
謎を考えるだけでも楽しい生き物の世界
シマウマのシマの謎、これはたぶん永遠にわかりません。
というのも、ツェツェバエ対策に有効だとしても、それが本当にそのためのものなのか、もしかしてほかの理由でシマシマになった結果ツェツェバエにも効果があっただけなのかわからないからです。
残るのは「シマシマはハエに対して有効」という結果だけで、しかしそれが今後人類の生活にも重要な研究結果になる可能性もあります。
そんな盛大な野望を持たなくても、動物の謎はとても面白いです。
たとえば、ハツカネズミの尻尾にはなぜ毛がないのか。リスのようにもっさり毛があった方がかわいいですよね。
犬はなぜ人と仲がいいのか。犬より飼われている猫ですらあそこまで人にべったりじゃないですよね。
魚はなぜ偽者の餌にだまされるのか。この謎を解明すると魚釣りが上手になるかもしれません。
人間は、幼いうちは謎がいっぱいで、答えに対する欲がとても大きいです。
しかしいろいろやることを与えられるうちにそんなことを忘れて、そのまま死んでしまいます。
それはとてももったいないことだと思います。
今は情報がインターネットに山ほどあるので、なぜに対して追求する必要もなくなりました。
でも、すこし自分の世界の中で「もしかしたらこうかも?」という考え方をしてみると、思いもよらない結果があるかもしれませんよ。