「チンパンジーと人間は99%DNAが一致する」という、豆知識を披露する人がたまにいます。
生物学の授業でも例に出す先生がいるでしょう。
しかし、それは間違いではないものの、イメージどおりの意味ではありません。
というわけで今回はチンパンジーとヒトのDNAがどこまで一致しているか、噛み砕いて解説します。
ヒトはサルの一種である
生物学上、ヒトはサルの仲間です。それは疑う余地がありません。
分類上我々は「サル目ヒト科ヒト属」で、簡単に言えば「直立二足歩行で脳みそがでっかくて道具を使えて言葉を話すサル」が人間ということになります。
動物には、たいてい似ている種類の生き物がいますが、人間は似ているとすればやはり同じサル目で、なかでもチンパンジーが似ていると言われます。
チンパンジーは道具を使い、言葉を理解し、たまに二本足で歩くのでたしかに似ているといえば似ていますが、それ以上の根拠があります。
それが「ヒトとチンパンジーはDNAが99%一致する」という説です。
正確には98.77%一致していると言われています。
ヒトとチンパンジーは本当に99%同じ生き物なのか。
共通点が多いとはいえ、さすがに99%一致しているといえるのでしょうか。
筆者は同じサル目ヒト科ヒト属で、似ているといわれているイチローとニッチロー’ですら99%似ていると思えません。
マナカナでやっと99%似ているといっても差し支えないレベルでしょう。
そう考えれば、チンパンジーとヒトのDNAが99%一致している説はちょっと疑問です。
そこで調べてみると、そもそもDNAを比較すること自体に無理があることがわかりました。
DNAを比較するときのルール
なぜ、ヒトとチンパンジーはここまで違うというのにDNAはここまで一致してしまうのか。
そこにはDNAを比較するときのルールに原因がありそうなのです。
DNAには膨大なデータが詰まっているので、文字にして分析しやすくします。
それでもその文字は膨大で、人間は約30億文字にも上るといわれています。
比べるなら、比較対象と膨大な量のデータを比較し照合していく作業があるわけです。
とはいえ人が読みやすいようわかりやすく記述されているわけではないので、わけのわからない部分が生まれてきます。
さらに、同じといえなくもないところや、そもそも比較が難しい部分があったりします。
科学者には怒られそうですが、わかりやすく例えてみましょう。
エピソード1
昔々あるところにおじいさんとおばあさんがいました。
おじいさんは山へ芝刈りに、おばあさんは川へ洗濯に行きました。
おじいさんは山でヒグマに逢い、持っていた鉈で勇猛果敢に戦いを挑みあと一歩でしとめられるというところで小熊に気づき、見逃してあげることにしました。
おばあさんは川で大きな桃を拾い、もってかえって割ってみると子供が生まれ、「桃太郎」と名づけておじいさんと大切に育てることに決めました。
桃太郎が大きくなったころ、町で鬼が宝や食べ物を奪っていく事件が頻発していました。
屈強な青年になっていた桃太郎は鬼退治へ行き、犬猿雉を連れて鬼を討伐しました。
町に帰った桃太郎は英雄となり、3人で幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし。
エピソード2
昔々あるところにおじいさんとおばあさんがいました。
おじいさんは川へ洗濯に、おばあさんは山へ芝刈りに行きました。
おじいさんは川で大きな桃を拾い、もってかえって割ってみると子供が生まれ、「桃太郎」と名づけておじいさんと大切に育てることに決めました。
あるときから里にドラゴンが出るようになり、桃太郎の身を案じたおじいさんはドラゴン討伐の旅に出ますが、その旅路は長く険しいもので、ドラゴンの巣に着いたころにはおじいさんには戦う力は残っていませんでした。おじいさんがドラゴンにやられそうになったそのとき、屈強な青年になっていた桃太郎が現れ、伝説の剣でドラゴンに切り捨て、おじいさんを連れて里に帰り3人で幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし。
自分でも恥ずかしいぐらいのおかしな昔話です。
まったく違うエピソードですが、ところどころ合っているところもありますね。
これのどこが一致しているかを突き止めるのがDNAを比較する難しさです。
登場人物がおじいさんとおばあさん桃太郎なのは同じです。
でも桃太郎を見つけるのがおじいさんとおばあさんであべこべですね。
敵が鬼とドラゴンで違います。
エピソード1のおじいさんはヒグマと闘えるほど強いですが、エピソード2では強いエピソードはないもののドラゴンと戦いに行っています。
青年になった桃太郎が強いのと、3人は幸せに暮らしたところも同じです。
どう比較していいか難しいですよね。
そこでDNAを比較するときはどうするかというと、よくわからないところや比較できないところをぶっこぬいていいそうなんです。
つまり、
エピソード1
昔々あるところにおじいさんとおばあさんがいました。
おじいさんは山へ芝刈りに、おばあさんは川へ洗濯に行きました。
おばあさんは川で大きな桃を拾い、もってかえって割ってみると子供が生まれ、「桃太郎」と名づけておじいさんと大切に育てることに決めました。
3人で幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし。
エピソード2
昔々あるところにおじいさんとおばあさんがいました。
おじいさんは川へ洗濯に、おばあさんは山へ芝刈りに行きました。
おじいさんは川で大きな桃を拾い、もってかえって割ってみると子供が生まれ、「桃太郎」と名づけておじいさんと大切に育てることに決めました。
3人で幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし。
こんな感じに抜粋して、比較しやすいところを比較するというわけです。
こう見ると、ちょっと違うけどなんか似てるなって印象に変わりますよね。
これが、チンパンジーとヒトのDNAが99%一致するというカラクリです。
ヒトとチンパンジーの比較では13億文字も削除している
ではヒトとチンパンジーの場合はどうだったかというと、なんと13億文字も無視して、残った24億文字から比較しているというわけです。
もし無視した部分も含めて比較するルールができたら、きっと99%も一致している結果にはならないですよね。
同じ方法で比較したヒトとバナナは約50%一致するといいますが、イメージだともっと低いです。
50%一致しているならきっとこんな感じ。
それでもDNAを知る意味がある
なぜわざわざ物語で例えたかというと、DNAもある種の物語を綴っていると言えなくもないからです。
DNAにはその生き物がどういう進化をたどって来たかがわかるので、たとえばヒトとチンパンジーを比較すればどこから枝分かれしたかがわかるというわけです。
ゲノムが解析されるたびにニュースになるのは、それほど生物学上重要で、生き物の進化や、その進化にいたった当時の環境を知る上で重要だからというわけですね。
もし、いまだにチンパンジーと人間の違いは1%だと思っている人がいたら、にこやかに相槌を打ってあげましょう。