犬の手作りご飯に、いつも入れない野菜を入れてみようと思い調べていると、こんな書き込みを見かけました。
犬は本来肉食動物なので野菜なんて食べません。
素人知識で犬に野菜を勧める記事はやめてください。
ちなみにそのサイトは獣医師が監修していて、ややもの足りないものの論立ててしっかり解説していたので私はばっちり参考にさせて頂きました。
タイトルにも誇らしいように『獣医師監修』と書いてあるのに、それに対して自信を持って素人だと言える人はきっと権威ある学者様なのでしょう。
というわけで、今回は動物の食性のお話です。
動物の主な食性
そもそも食性とは、「かなり大雑把に言って自然界で何を食べているか」です。
大雑把過ぎてその言葉からイメージできることは正しくないことは最初に言っておきます。
それでいても、食性を分類するとこんな感じになります。
肉食動物
簡単に言えばほかの動物からの栄養のみを摂取して生きている生き物を指します。
ライオン、トラ、ワシ、カマキリ、ダニなどなど。
植物食動物
簡単に言えば植物のみを食べる生き物を指します。
ゾウ、ウシ、ウマ、ウサギ、モルモット、カブトムシ、バッタなどなど。
雑食動物
肉も植物も何でも食べられる動物です。
ヒト、エゾヒグマ、チンパンジー、ブタ、アリなどなど。
そのほかのいろいろな食性
ほかにも土に含まれる栄養を摂取する土食動物、分解された生き物や植物の成れの果てを食べるデトリタス食動物、キノコを含む真菌を食べる菌食動物などがあります。
これらはそれだけではなく、主に別なものを食べているが、健康維持や趣向で食べているような場合が多いです。
ここからさらに食べ方によっていくつかに分かれます。
自分で殺して食べるのか、自然死したりほかの生き物の食べ残しを食べるのかなどなどですね。
ここで何が言いたかったというと、肉食動物でダニをイメージできた人は少ないですよね。
草食動物でカブトムシイメージした人は少ないですよね。
つまりはこの食性の名前だけ知っていたところで、それが本当の食生活に繋がるのかという話です。
肉食動物の勘違い
では、とりわけ肉食動物を掘り下げて考えてみましょう。
たとえば肉食動物の代表格であるライオンには「肉食だから肉だけ食ってんだろ贅沢な」という勘違いが付きまといます。
人間の食生活に動物の食生活を当てはめるのが大間違い
まず大前提として、きっとこのコメントをした方は、肉食動物が食べる肉に人間の考える「肉」を当てはめているんでしょう。
たしかに人間が「肉を食う」といえば、ステーキやらとりもも肉といった筋肉を想像しそうです。
では自然界に生息する動物は、切り分けてパックに入った肉を食べているでしょうか。
無論食べていないですね。
肉食動物、とりわけ自分で狩をして食べる捕食動物は動物を丸ごと食卓に乗せます。
食べるのは筋肉だけでなく皮膚、脂肪、骨、内臓なども含めた全身です。
近所のスーパーを駆け回っても絶対に手に入らないような部位まで全て食べられるわけです。
筋肉だけでなく骨や内蔵その内容物まで含めた「全体食」
つまりは「肉」だけ食べているわけではなく、骨や場合によっては蹄などの肉とは言えないところまで食べているわけです。
これにももちろん意味があって、消化しきれない骨は腸の動きを促す役割があります。
もしかしたら食感も楽しんでいるのかもしれないですが。
また、筋肉にはない栄養素をほかの臓器から得る意味もあります。
さらには、草食動物が食べて内臓に入っている、半分フンになりかけた植物から植物の栄養を摂取することもあるわけです。
だからわざわざ顔面血まみれになってまで内臓をひっぱりだして食べるわけですね。
つまり、肉食動物だから肉食えばいいんだろと思ってステーキ肉ばっかり与えたとしたら、いずれ何かしらの病気になってしまうわけです。
ではイヌは?
遠回りしましたが、そろそろイヌに着地しましょう。
ライオンの例と同じように、仮にイヌが肉食動物だとしても、肉だけ食べていればいい訳ではないことがわかりましたね。
しかしライオンの例を犬に当てはめるのも間違いです。
なんてったって
イヌはほぼ雑食
ですから。
そうなんです。よく勘違いされますが、「肉食ってるオオカミの末裔だから肉食だろう」というのは大きな間違いです。
そもそもオオカミ自体雑食性が強い上に、イヌは雑食のヒトと長い間暮らしてきたために、そのオオカミよりさらに植物の消化吸収能力が高くなっていると言われています。
イヌ科グループの他の動物と同様、イヌは基本的には肉食であるが、植物質を含むさまざまな食物にも、ある程度までは適応する。消化管はそれほど長くないが、腸の長さが体長(頭胴長)の4から4.5倍程度であるオオカミに対して、イヌのほうは5から7倍と、いくらか長くなっており、これも植物質の消化に役立っている。肉食獣の中には盲腸をもたない種も存在するが、イヌはそれほど大きくないものの 5から20cm程度の盲腸をもつ。
オオカミとイヌの違いとして、脳機能に関する遺伝子および消化酵素をコードする遺伝子の相違が報告されている。報告によれば、イヌではデンプンの分解酵素の一つであるアミラーゼ遺伝子のコピー数が多く、その活性はオオカミの28倍である。同じくデンプンの分解酵素であるマルターゼ遺伝子の場合、コピー数に大きな違いは無いが、イヌのマルターゼ遺伝子配列は長いタイプであり草食動物のものに近いという。このような違いはイヌの進化における家畜化・雑食化の過程の一つと考えられている。
出典:イヌ‐Wikipedia
オオカミと犬はDNAがほとんど同じだからそんなわけない!というイメージをたてにしたい方もいるかもしれませんが、逆に言えば2%でここまでの違いが出るんです。
もちろん犬が完全な雑食とまでは言えません。
植物を食べるための歯(臼歯)がないことや、穀物を与えると体重コントロールが難しくなることから、草食性はおまけみたいなもので、肉食性が強い雑食性、もしくは雑食性の強い肉食性と言った方がただしいでしょう。
消化しにくいと出来ないは別物
この事実がわかっていながらも、いまだに野菜はあげてはいけない説ははびこっています。
そもそもイヌが野菜を消化できる能力が高いのは申し上げたとおりですが、そもそもなぜ消化しにくい状態で与える前提なんでしょう。
本当にイヌの健康を考えているとして、与えると消化しにくいデメリットがある、けど食べたらメリットがあるなら消化しやすい状態で与えたらいいんじゃないの?と思います。
人間だって、風邪引いて胃腸が弱っているときにお米と卵が栄養摂取に有効なら、卵チャーハンじゃなくて卵粥にして食べるでしょう。
もし野菜をまったく消化できないのであれば私もあげちゃダメ!と言うでしょうが、愛犬の健康のために強化したい栄養素が含まれているなら、イヌでも消化しやすくしてあげればいいのです。
もちろん、どう調理しても消化しにくい食べ物や、有効な成分以外に有害なものの入ったものまで与えろとは言いません。
愛犬の健康状態や体質的な要因もあるでしょう。
じゃあそこも加味して考えればいいんじゃないか?と思います。
かわいいものはかわいいものしか食べないわけじゃない
ついでに少し遠回りして帰りましょう。
人間は清潔で美しいものしか食べないつもりになっているので、食というものの本質を見失っています。
本来、食とは栄養を摂取する生存のための命をかけた作業で、清潔さも美しさもかわいさもありません。
たとえばスローロリスはかわいらしい見た目をしていますが、人間の親指ほどの太さもあるバッタを生きたまま噛み千切り租借しながらおいしそうに食べます。
かわいさゆえに絶滅の危機に瀕してしまったコツメカワウソも生きた魚をまるかじりしますし、小さい歯でガジガジしてちぎるのでその切断面はぐちゃぐちゃで、しかもそうなっても魚は生きてピチピチしていたりします。
所詮かわいいはイメージでしかなく、犬が肉しか食べないのもイメージです。
食事姿がかわいい生き物はかわいいものしか食べないわけではなく、肉食べそうな生き物も肉だけ食べるわけではないんです。
イメージに支配されるべからず
「肉食べているイメージの強いオオカミの末裔だから肉しか食っちゃダメ」というイメージが先行し、最近ではドッグフードですら、肉がたくさんだからいい!という風潮になりつつあります。
しかし、イヌの消化器官が植物を消化しやすくなっているのは事実ですし、野菜から摂取できる栄養が有効なことも事実です。
人間の凝り固まったイメージなんて生き物の健康になんの意味もないどころか害悪ですし、問題があるとしても、改善するための工夫すら放棄したらもう人間の能力ってなんのためにあるんでしょう。
とはいえ今は当たり前になっている「地球は回っている」と正しいことを言った人間を凝り固まったイメージで封殺したことから察するに、事実よりもイメージを優先してしまうのは人間のおろかな習性のひとつなのかもしれませんね。