円山動物園35種類を飼育断念 展示数か飼育環境か?動物園のありかたを考える

円山動物園35種類を飼育断念 展示数か飼育環境か?動物園のありかたを考える

今回取り上げるのはこちらのニュース。

札幌市円山動物園は、動物園として飼育展示する役割を考慮し、現在166種類の動物のうち約2割の35種類の動物の飼育を将来取りやめる方針です。

円山動物園では動物の希少性や教育、動物の飼育環境を確保できるかといった観点から、積極的に繁殖に取り組む巣推進種、状況に応じて繁殖に取り組む継続種、そして飼育をやめる断念種の3つに分類しました。

その結果、オランウータンやアジアゾウ、ホッキョクグマなど25種類を推進種とする一方、将来的にシンリンオオカミ、やブチハイエナ、ゼニガタアザラシなど35種類は飼育を断念することになりました。

引用:北海道ニュースUHB

 

みなさんはこのニュースを読んだときどういう印象を持ったでしょうか。

見られる動物の数が減って残念だという方も居るでしょうし、オオカミやハイエナなどなじみのある動物が居なくなるのを寂しがる人も居るでしょう。私もオオカミがいなくなるのはとても残念です。

残念な反面、この取り組み自体は非常にいい傾向にあると思っています。

というわけで今回は、円山動物園の展示種類削減から考える動物園のあり方について考えてみましょう。

 

 

円山動物園が飼育を断念する動物のリスト

まずは円山動物園が飼育を断念する動物と、その理由を見ていきましょう。

 

エリマキキツネザル

保全の必要はあるものの、ワオキツネザルの方が国内の個体数が確保されており繁殖の優先度が高いことからエリマキキツネザルの優先度が低いと判断されました。

 

クロザル

国内の飼育個体が少なく、遺伝的多様性が保ちにくいことと、動物福祉の観点から飼育を断念することが決まりました。

 

テナガザル

飼育されている個体が雑種だということが分かり、繁殖させられないことから飼育を断念することが決まりました。

 

ジャワスローロリス

密輸の保護個体を導入しましたが、遺伝子の多様性を保ちにくく、新しく導入するのも難しいことから飼育を断念しすることになりました。

シンリンオオカミ

広いテリトリーを持つ習性や、飼育下で子供が成熟したときに順位争いの問題などがあることから、動物福祉的に飼育は適さないと考え断念種となりました。

 

ヒマラヤグマ

全国的に見て継続して繁殖させられるほどの個体数がおらず、円山の個体においても高齢で繁殖に適さないことで飼育を断念することに決めました。

 

ブチハイエナ

国内の飼育個体のほとんどが血縁関係で繁殖に適さないため、ライオンの動物福祉向上のために飼育を断念することになりました。

 

サーバルキャット

保全上の優先度が低く、国内の飼育個体も少ないことから飼育優先度が低いと判断されました。

 

エランド

保全上の優先度が低く、シマウマと比較した上で飼育優先度が低いと判断されました。

 

オグロプレーリードッグ

保全上の優先度が低く、今後こども動物園で触れ合いやすい家畜種を優先することから飼育を断念することに決まりました。

 

アメリカビーバー

教育的価値は強いものの、高齢個体で繁殖に適さず、今後こども動物園で触れ合いやすい家畜種を優先することから飼育を断念することに決まりました。

 

ポニー

触れ合える動物として人気ですが、円山動物園で飼育する動物としてはどさんこ馬のほうが意義があるという判断で、断念種になりました。

 

ゼニガタアザラシ

飼育キャパシティを圧迫しているため、ゴマフアザラシを優先するために飼育を断念することに決まりました。

 

モモイロインコ・ナナクサインコ

野生個体はワシントン条約に指定されているものの、ペットとして広く流通している種類で、保全の必要性が低いため飼育を取りやめることに決まりました。

 

イヌワシ

自然の個体数が激減し、保全の必要はあるものの他のワシ類との雑居が難しく、北海道の固有種を含めほかのワシ類の飼育環境改善を優先することから、飼育を取りやめることに決まりました。

 

ツミ

新たに導入が難しく飼育個体を維持しにくい上に、保全の必要性が低いことから断念種に決定しました。

 

アカツクシガモ

保全の必要性が低く、北海道に生息する水鳥を優先するため飼育を取りやめることに決定しました。

 

シュバシコウ

保全の必要性が低く、アフリカゾーンに十分な飼育エリアを確保できないことから断念種に決定しました。

 

ナキサイチョウ

保全の必要性が低く、国内の飼育個体数が少なく新たな導入も難しいことから断念種に決定しました。

 

サンショクキムネオオハシ

保全の必要性が低く、国内の飼育個体数が少なく新たな導入も難しいことから断念種に決定しました。

 

アメリカワシミミズク

保全の必要性が低く、希少種である同種の飼育環境を考え、生態の似たユーラシアワシミミズクに代替することが決まりました。

 

インドクジャク

必要な飼育面積が広く、フラミンゴの動物福祉向上のため飼育を取りやめることに決りました。

 

外国産小型鳥類

新たに導入が難しく、和鳥の飼育を優先するため飼育を取りやめることに決まりました。

 

コールダック

動物福祉の観点から飼育を取りやめることに決まりました。

 

シナガチョウ

同上。

 

ミズオオトカゲ

飼育施設が狭く、動物福祉の観点から飼育を取りやめることに決まりました。

 

ニシキセタカガメ

保全の優先度は高いものの、世界的に飼育個体が少なく繁殖が困難なため、飼育個体の死亡後は新たな導入をしないことに決めました。

 

インドホシガメ

保全の優先度は高いものの繁殖方法も確立され優先度が低く、飼育個体の死亡後は新たな導入をしないことに決めました。

 

オマキトカゲ

展示する価値はあるものの国内の飼育個体が少ないため、飼育個体の死亡後は新たな導入をしないことに決めました。

 

アミメニシキヘビ

飼育施設が狭く、ペットとして広く流通していることから飼育個体の死亡後は新たな導入をしないことに決めました。

 

コイチョウイボイモリ

円山動物園唯一のイモリなので当面飼育するものの、今後国内のイボイモリに代替する可能性が高いため飼育個体の死亡後は新たな導入をしないことに決めました。

 

アジアアロワナ

野生個体は減少しているものの養殖場での繁殖が積極的に行われており、飼育状況が過密であることから今後コツメカワウソへの代替も視野に飼育を断念することに決まりました。

 

 

オオカミやビーバー、クジャクやサーバルキャットなど、一般的かつ人気の動物もかなり断念種に決定されていますね。

無論飼育しないからといって処分するわけではなく、今後指定された動物は、他の飼育設備の整った動物園への引越しや、生涯飼育したうえで新たに導入しないなどして、円山動物園から姿を消すことになります。

残念ではありますが、これには大きな意義があります。

写真は円山動物園に行ったときに、いい写真が撮れ次第随時追加していきますのでおたのしみに。

 

 

断念種を決めた3つのポイント

飼育を断念する理由を見ていくと、3つのポイントで飼育を継続するか否か判断していることが分かります。

ちなみに断念種の35種だけでなく、すべての動物を評価し分類しています。

 

展示的する価値

来園者に伝えられるものがあるのかどうか、つまり動物園として展示する価値があるか否かです。

今回の円山動物園の例では来園者が面白いかどうかというより、生物学的に見てその価値があるかどうかを優先しているように見えました。

たとえばコイチョウイボイモリは断念しながらも唯一のイモリなので重視していることが分かりますし、ポニーは展示する価値があるとしながらもどさんこ馬のほうが優先度が高いとして断念種に指定されています。

直感的に「見る感動」というより、「生物学的に必要かどうか」「北海道という土地柄優先するべきか」という深い部分で判断しているのが個人的には好印象ですね。

 

保全の優先度

動物園は来場客に動物のすばらしさを伝えるとともに、希少な動物を飼育下で保護し研究するための研究施設でもあります。

該当する動物が、動物園で保全が必要なのか、全国の動物園水族館の飼育個体、世界の飼育個体と照らし合わせて繁殖が可能なのかを総合的に考えて判定されています。

動物園は世界中の動物園などの飼育施設とのネットワークを持っていて、遺伝子の多様性などを考えて希少な野生動物の保全を行っています。

この部分の判定は非常に困難だったかと思いますが、発表されている資料を見るとすべての動物を細かく検証していることが分かります。

 

動物福祉

これは近年事故の頻発していた円山動物園が喫緊で取り組まなければいけなかった問題で、今後の動物園の運営にも大きく関わる部分だったのかと思います。

かつての狭くただ寝ているだけの姿だけではなく、動物が本来の生活ができる施設なのか検証されています。

どの動物もこの部分を重視して考えていることがわかり、それぞれの動物の生態と飼育環境を照らし合わせ考えられています。

もちろん現状動物福祉から考えて適していない飼育設備だからやめるというわけでなく、展示する価値があり、保全するべき動物(ボルネオオランウータンなど)に関しては、飼育施設の改善も含め検討されているので、天智を継続する動物は今後よりよい施設に改善されていくでしょう。

 

 

展示数を減らす難しさ

展示数を減らしても動物の飼育環境を重視するといえば聞こえはいいですし、私もこの考え方に賛同します。

しかしそれは言うほど簡単なことではないでしょう。

より展示する意義のある動物に置き換える場合もあるので35種類減るわけではありませんが、展示数が減れば、シンプルに動物を見て楽しみたいという層からは魅力に欠けることになるのは間違いないですし、代替する動物がもともと居た動物よりインパクトがあるかどうかは重視されていません。

つまり、数や見かけのインパクトを補えるほどの魅力をそれ以外の部分で見出す必要があります。

ホッキョクグマ館やゾウ舎など、近年人気の集まりやすい行動展示を重視した大規模の施設を新設するにはもちろん多額の費用が必要で、すべての動物に対してできることではありません。

敷地を増やす計画もいまのところはないので、現状の限られたスペースで運営していくことになり、数を減らし他に付加価値をつけるには他の動物園にはない工夫が必要でしょう。

もちろんこれは円山動物園だけに必要な改善ではなく、全国には動物福祉が十分とはいえない動物園がもっともっとあります。

現状動物福祉の発展途上国とも言える日本が、今後動物福祉の先進国になれるかどうかは今進めている円山動物園の活動が成功するかいなかにもかかっていると言えるでしょう。

 

 

さいごに

今回の計画は、札幌市円山動物園基本方針「ビジョン2050」として長期計画の一環で決定しました。

この取り組み自体はすばらしいものではありますが、展示数を減らしたり、伝わりやすい見掛けの美しさや独創性のある動物であるかどうかを度外視して選ばなければいけない難しさもあります。

動物福祉を実現しながら収益を維持できるのか、今後われわれも長期的にその動きを観察していく必要があるでしょう。

 

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